松坂桃李さんのテレ朝ゴールデン帯ドラマ初主演作は、貫井徳郎さんの“最恐”ミステリー『微笑む人』。
仁藤は「本を置く場所が欲しかった」という耳を疑う動機で妻子を殺すのですが、彼は「それが何か?」とばかりに穏やかな微笑みを返します。
常識があいまいな現代にこそ、刺さるドラマです!
原作とドラマの結末は違うとのことなので、大いに楽しみです。
当記事では松坂桃李さん主演ドラマ『微笑む人』の
- 放送日
- 原作情報
- 登場人物
- 原作ネタバレ
- 原作とドラマの違い
- 仁藤の本当の動機
についてまとめています。
もくじ
- 1 ドラマ『微笑む人』の放送日
- 2 『微笑む人』原作とは?
- 3 『微笑む人』主な登場人物
- 4 『微笑む人』原作とドラマの違い
- 5 『微笑む人』原作ネタバレ
- 5.1 エリートサラリーマンが妻子を惨殺!衝撃の動機とは?
- 5.2 仁藤の“人となり”は完璧?
- 5.3 担当弁護士・米森の話
- 5.4 田坂の話
- 5.5 梶原敬二朗の白骨遺体
- 5.6 初めての接見
- 5.7 仁藤の過去:大学生時代(松山の事故死)
- 5.8 仁藤の過去:大学生時代(警官をハメる)
- 5.9 仁藤の過去:高校時代
- 5.10 仁藤の過去:小・中学生時代(犬の飼い主・堀内の死)
- 5.11 仁藤の過去:小学生時代(謎の同級生・ショウコ➀)
- 5.12 仁藤の過去:小学生時代(謎の同級生・ショウコ➁)
- 5.13 仁藤の過去:小学生時代(謎の同級生・ショウコ➂)
- 5.14 仁藤の本当の動機がわかった?
- 5.15 カスミの恐るべき正体
- 6 『微笑む人』筆者の感想・仁藤の本当の動機とは?
ドラマ『微笑む人』の放送日
ドラマ名 | 微笑む人 |
---|---|
放送日 | 2020年3月1日(日) |
放送時間 | 21:00~23:05 |
放送局 | テレビ朝日系 |
『微笑む人』原作とは?
ドラマ『微笑む人』の原作は、ミステリー界の巨匠・貫井徳郎さんの同名小説。
15万部突破の大ヒットサスペンスで、貫井さんが「自身の最高到達点」と語る超自信作。
テーマの難しさゆえ「映像化は不可能ではないか」と考えられていて、今回が初映像化となります。
貫井さんの代表作といえば、「第63回日本推理作家協会賞」を受賞した『乱反射』。
「メ〜テレ開局55周年記念ドラマ」として2018年9月22日に、妻夫木聡さん・井上真央さん主演で放送されました。
物語は、誰もが羨む家庭を築いていた完璧な男・仁藤(松坂桃李)が、信じられないような理由で妻子を殺した、というところからスタート。
タイトル通り、常に微笑みを浮かべる彼の表情の裏に隠された本当の姿とは?
貫井氏はこの作品のテーマを「世間の人たちは、自分がわかる範囲だけで“わかった気”になっている」ということだと定義します。
つまり「理解できない犯罪が一番怖い」のです。
『微笑む人』主な登場人物
ドラマ『微笑む人』の主な登場人物をご紹介します。仁藤俊美:松坂桃李
登場人物
仁藤俊美(にとう・としみ)は、エリート銀行員。
安住川で妻子を溺死させた罪に問われ公判中の被告人。
「本の置き場所が欲しかった」という理由だけで妻子を殺害した。
常に柔らかな微笑みをたたえ、妻子を大切にしている、誰もが認める“いい人”だったが、その顔の裏には、思いもよらぬ過去が隠されていた。
松坂桃李のコメント
仁藤という男がやってきた行為は、もちろん許されるものではないのですが、台本を読んだ最初の印象では、なぜか嫌な感じがしなかったんです。彼の振る舞いや言動は、ある種の正論を言っている部分もあるので、不思議な感覚でした。
そんな人物なので、僕自身も演じるにあたって「仁藤はこんな男だ」という風に思いすぎないほうがいいのかなと考えました。引用元: 「微笑む人」公式HP
鴨井 晶:尾野真千子
登場人物
鴨井晶(かもい・あきら)は、週刊誌『週刊海潮』の契約記者。
ドラマだけのオリジナルキャラクター。
夫である拓郎に家事を任せ、もう一度記者として第一線で活躍するべく、仕事に励んでいる。
仁藤とは以前から面識があり、法廷で仁藤が語った「本の置き場所が欲しかった」という動機に納得がいかない。
どうしても仁藤を殺人犯とは思えない晶は、事件の真相を究明しようと動き始める。
しかし次第に自分が知っていた仁藤と、関係者から聞く仁藤の人物像に乖離が生まれ始め、複雑な感情を抱くようになっていく。
尾野真千子のコメント
この作品を読んで、まず湧き上がったのは「異様だな」という感情でした。
完全に理解できるわけではないのだけれど、「あぁ結局人間っていうのはこういうものなのかな」と思わせるような、とてもリアルな人間の感情が描かれている気がしました。その異様さをどのように演じられるだろうかと考えることがとても面白く、さらにそれをどのくらい“普通”に演じることができるかを心がけていました。私が演じる鴨井晶という女性は、いわゆる“ジャーナリスト”なのですが、ごく普通の主婦だった女性が、家事を夫に任せ、外に働きに出ている――特別なことは何もない女性でいたいと考えて現場に入りました。引用元: 「微笑む人」公式HP
井上 肇:生瀬勝久
井上肇は、週刊誌『週刊海潮』のデスク。
晶とは昔からの上司と部下の関係で、何かと晶を記者として便利使いしている。
晶が仁藤と個人的な知り合いだと知り、巻頭特集を約束して取材を任せる。
少々、チャラいところがあるキャラクターだが意外な人脈を持っており、事件につながる証言を得ることも。引用元: 「微笑む人」公式HP
佐藤邦男:福田転球
神奈川県警津田原警察署・刑事。仁藤俊美の取り調べを担当した。晶とは過去に面識がある。
引用元: 「微笑む人」公式HP
滝沢孝一:田中要次
神奈川県横浜拘置所・刑務官。収監されている仁藤を何かと気に掛ける。
引用元: 「微笑む人」公式HP
梶原敬二郎:阿部亮平
慶和銀行に勤めていた仁藤俊美の先輩。周囲の評判が悪かった。
引用元: 「微笑む人」公式HP
保坂 保:薬丸翔
慶和銀行に勤める仁藤俊美の後輩。仁藤の人柄を尊敬していた。
引用元: 「微笑む人」公式HP
カスミ:佐藤乃莉
キャバクラ勤務の女性。仁藤の小学生時代の同級生。
引用元: 「微笑む人」公式HP
鴨井拓郎:小久保寿人
晶の夫。働く妻に代わって家事や育児もこなす。
引用元: 「微笑む人」公式HP
『微笑む人』原作とドラマの違い
『微笑む人』原作とドラマの違いについてまとめます。オリジナルキャラクター
事件を追う記者・晶は、原作にはないオリジナルの役。
尾野さんとは警察の接見室でのシーンがほとんどでした。最初は仁藤の行動を理解できない晶がどんどん彼の底知れない恐ろしさに気付き始めていく…。接見の場面は何度かあるのですが、どれも緊張感に包まれてましたね。監督のこだわりもすごく感じて。時には6分以上も長回しで撮影していたりしました。ラストに向けての伏線となるせりふもありますので、ぜひ注目して見ていただきたいです。
引用元:雑誌「TV LIFE」松坂桃李のセリフより
結末が違う
原作とドラマで結末が違うとのことです。
原作者の貫井さんが描いた世界はそのままに、ドラマならではのスリリングな展開が盛り込まれています。
貫井さんは(脚本家・秦建日子さんのラストについて)「なるほど!とびっくりしました。テレビの前で気軽に視聴し始めた方々も、引き込まれるような展開で、満足感を得られるようなラストになっているのではないでしょうか!」と絶賛しているので、楽しみです。
『微笑む人』原作ネタバレ
『微笑む人』の原作のあらすじをネタバレします。エリートサラリーマンが妻子を惨殺!衝撃の動機とは?
妻子殺害の罪で起訴された仁藤(松坂桃李)は、公判で「本の置き場所が欲しかったからです」と衝撃の動機を告白。
1年半前、仁藤は『安治川事件』を起こしました。
・神奈川県相模原市の西北部を流れる安住川で、仁藤が妻の翔子(かんこ)と娘の亜美菜(池谷美音)を溺死させた。
仁藤の殺人行為は、きわめて残虐・血も涙もないものでした。
妻と娘をキャンプに誘い出し、自らの手で2人の頭を川に沈めて殺したのです。
その後、仁藤は事故死を装うため、自らも川に入って全身ずぶ濡れになりました。
当初は仁藤は、事故で妻子を失った悲劇の夫(父親)を装いました。
しかし目撃証言と妻の手の爪から仁藤の皮膚片が見つかったため、警察は仁藤の逮捕に踏み切ったのです。
仁藤は犯行を認めましたが、犯行理由は「本が増えて家が手狭になった」という奇怪なものでした。
確かにマンションの仁藤の部屋は、仁藤の本で溢れかえっていました。
しかし本を置く場所が欲しいからと言って、妻子を殺すでしょうか?
仁藤の“人となり”は完璧?
仁藤に興味を持った小説家「私」は、事件をノンフィクションにまとめるべく取材を開始します。
※小説家「私」は、ドラマでは週刊海潮の記者・鴨井晶(尾野真千子)。
「私」は、仁藤が妻子を殺した本当の動機を探るため、まずは仁藤の“人となり”を調べました。
・妻の翔子とは銀行で出会い、2年少々の交際を経てゴールイン(1年は別れていたので実際には1年の交際)。
・普段は女性に対しては受け身な仁藤だが、翔子には自分からアプローチした。
・結婚後は都心の一等地にある高級マンションに住み、娘の亜美菜を授かるなど、絵に描いたような幸せな人生を送っていた。
・仁藤と妻の翔子が喧嘩しているのを目撃した人間はいない。
・女性にモテたが、浮気は一切ナシ(魅力的な美女の誘惑も退ける堅物)。
・「本の置き場所が欲しかった」と動機は異常だが、読書傾向はいたってノーマル(猟奇性はナシ)。
まとめると、仁藤が妻子を殺す理由は常識的な範囲では思い当たりませんでした。
さらに仁藤は、職場や近所の人からの評判がよく、まさに好印象の塊の人物でした。
(ただ印象的だったのが、皆が口を揃えて仁藤を「冷静だ」「クールだ」と言ったこと)
仁藤を知る人たちは皆口を揃えて「仁藤が殺人を犯したなど信じられない」と言いました。
担当弁護士・米森の話
果たして仁藤は、どんな状況下で「本の置き場所が欲しかったから殺した」と自供したのか、その時の仁藤の精神状態は普通だったといえるのだろうか?
「私」は、仁藤の担当弁護士、米森に話を聞くことに。
米森の話は以下の通り。
・しかし自分の直感は大きく外れた、そういう意味で仁藤は特殊な第一印象を与える人物だった。
・仁藤は淡々と「私が妻子を殺したのは本の置き場所が欲しかったからです」と語った。
・米森は、そんな動機は考えられないため、事情があって虚偽の告白をしているか心神耗弱を疑った。
・判決は、仁藤の心神耗弱を認めず、仁藤が嘘の動機を言っていると判断。
米森は、今でも仁藤は心神耗弱であると考えています。
しかしそれは一時的なものではなく、もっと根本的な精神の部分的欠落。
最後まで米森は、仁藤が精神異常なのか嘘をついているのか、はっきり判断出来なかったというわけです。
田坂の話
とにかく周りの評価が高い仁藤ですが、仁藤の職場の後輩・田坂だけは違う証言をしました。
田坂は町工場の社長の融資の願いを断り、その結果町工場の社長が自殺したことがありました。
田坂がこのことを先輩行員である仁藤に相談すると、仁藤の答えは「弱肉強食は自然の摂理なんだよ、気にしてもしょうがないだろ」とスパッとしたものでした。。
田坂はもっと同情的な声が聞けるかと思っていたので、大きなショックを受けました。
その時、仁藤はただの温厚な人間ではなく恐ろしくドライな一面があるのではないか?と思ったそうです。
また別のエピソードでは、田村が仁藤にかかってきたお客様の電話を知らせるのを忘れたことがありました。
その時の仁藤の言葉が「(他の人には聞こえない小声で)死ねよ」。
驚いた田村が仁藤の顔を見ると、冗談を口にしたかのように笑っていました。
だから冗談なのかと解釈しましたが、田村は後々も「死ねよ」と言った仁藤の笑顔を思い出すことになりました。
もしかしたら、田坂さんはたまたま仁藤と相性が悪かったのかもしれません。
しかしこの後明らかになっていく事実を知った上でもう一度田坂の話を検証すると、田坂は本質を見抜ける人間だったのかもしれないと思えてくるのです。
梶原敬二朗の白骨遺体
そんな中、2年前に失踪していた梶原敬二朗の白骨遺体が見つかりました。
梶原は、以下の2点で仁藤と接点がありました。
・梶原の遺体が発見されたのは、仁藤が妻子を殺した安治川の近く。
しかしいくら調べても仁藤が梶原を殺した証拠は見つからず、仁藤も犯行を否認。
仁藤の同僚の銀行員から話を聞いてみると、皆口を揃えて「梶原は嫌われ者だった」と証言。
そして梶原の失踪1週間前の、仁藤と梶原のエピソードが以下です。
・仁藤が、2人の仲裁をした。
「私」には、このエピソードが仁藤の梶原殺害に繋がるとは到底思えませんでした。
むしろ仁藤だけは、嫌われ者の梶原とうまく付き合っていたとさえ言えるからです。
しかし本当に仁藤は、梶原の死に無関係なのか?
いずれにしても、動機は常人の感覚では見つかりません。
そんな中、当時の支店長・望月が非常に興味深い証言をします。
警察はこの証言に着目しませんでした。
出世の亡者ならともかく、たった1年早く課長代理になりたいからと殺人を犯す人間はいないと考えたからです。
それに銀行は年功序列の世界なので、少なくとも課長代理ぐらいなら誰でもなれます。
しかし「私」は思いました。
なにしろ仁藤は、本の置き場所を確保するために妻子を殺したと自白しているのです。
それに比べれば、たった1年の我慢ができずに人殺しに手を染めたとしても、特に不思議なこととは思われませんでした。
初めての接見
「私」は、初めて仁藤と接見することになりました。
仁藤の印象は、俗世を超越したかのような趣きもあり、やはり価値基準が常人とは違うのでは?と思わせるものでした。
仁藤:「本当です、本って際限なく増えていくんです。きちんと本棚に並べてないと美意識が満足できないんです」
私:「仁藤さんは、妻子よりも本を綺麗に並べることが大事なのですか」
仁藤:「強烈な自己愛というとはどうでしょう?僕はそれをわかりやすく“本の置き場所が欲しかった”と表現した」
これが真実の筈がありません。
もし自分の生活を乱されるのが嫌であれば、もっと早い段階で排除していたはず。
子供ができて数年も経ってから実行したというのが、いかにも説得力がありません。
「私」が梶原敬二朗の遺体が発見されたことについて聞いてみると、仁藤は笑みを絶やさないまま「ただただ驚きですよ」と首をかしげました。
「私」は、この言葉が嘘だと直感しました。
仁藤の過去:大学生時代(松山の事故死)
週刊誌が、仁藤が大学生時代に関わったかもしれない、ある事故死について報じました。
それは、松山彰さんといって享年21歳。
事故死の状況はなんら複雑なところはなく、T字路を左折しようとした大型ダンプカーが、歩いていた松山さんに気付かず巻き込んでしまったというもの。
松山さんはダンプの下敷きになって内臓破裂で即死、つまり特に事件性があるわけではありません。
松山さんの死に特別な点があるとすれば、大学の同級生に仁藤がいたことのみ。
仁藤の同級生・中里に話を聞いてみると、仁藤は松山と仲が良かったとのこと。
そして中里は、ある1つの出来事が引っ掛かっていました。
そのゲーム機は当時人気で、入手困難なものでした。
仁藤が持っていたゲーム機は松山のと同じ色で、松山のと同じ場所に傷があったのです。
中里は、もし仁藤が本の置き場所が欲しくて妻子を殺す人間であれば、ゲーム機が欲しくて殺人を犯すこともあるのではないか?の考えに至ったとのこと。
中里は、当時この話を一人の警察官にしたという。
仁藤の過去:大学生時代(警官をハメる)
その警官の名前は、上国料(かみこくりょう)でした。
しかし上国料は、松山の事件の後、民間人に暴力をふるって懲戒免職になっていました。
これは一体どういうことなのか?
「私」が面会を求めると、上国料は応じてくれました。
そしてこれが“完全な濡れ衣”だったことを話してくれました。、
松山の事故は、大型ダンプカーによる巻き込みだったが、運転手は人がいることに気が付かなかったという(そんなことがあるのか?)。
運転手の目撃証言によると、現場に松山以外にもう一人いたということだが誰なのか不明。
上国料は、中里の話を聞いて引っ掛かりを感じ、仁藤と接触。
仁藤に松山のゲーム機が亡くなっている話をして、仁藤のゲーム機も見せてもらいました。
しかし仁藤のゲーム機に傷はなく、松山の物ではありませんでした。
上国料は仁藤が捜査の目をかわすために、わざわざもう1台ゲーム機を買ったと直感。
仁藤がゲーム機の製造番号を消していたことから、上国料は仁藤が松山を殺したと確信します。
上国料は執拗に仁藤をマークし続けますが、ある日仁藤が「話したいことがあるから、今夜渋谷のセンター街をゆっくり歩いてきてください。こちらで見つけて声をかけますから」と言ってきました。
上国料は胡散臭さを感じつつも仁藤の誘いに応じましたが、仁藤は現れませんでした。
その後、上国料は仁藤に暴力をふるったと疑われることに。
なんと目撃証言(善意の第三者)まであり、その時間に渋谷のセンター街を往復していただけの上国料にアリバイはありませんでした。
考えられるのは、仁藤が上国料に似た人間を雇って事件をでっち上げたということです。
そして目撃者は、その上国料と似た背格好の人間を目撃したのです。
こうして上国料は、まんまと仁藤にハメられました。
しかし当時の上司でさえ、上国料を信じませんでした。
なぜなら、ゲーム機がほしくて仁藤が松山を殺すなどありえないことだと思ったから。
・上国料さんの話は衝撃的だった。
・これが事実なら、仁藤は悪人と糾弾するにふさわしい人間で、警察も叶わない知能犯ということになる。
仁藤の過去:高校時代
今まで仁藤の過去を遡った結果、殺人の可能性がある怪しい死が2つ浮かび上がりました。
「私」は、仁藤の過去にはまだまだ埋もれた死があるに違いないと思い、仁藤の高校時代についても調査することにしました。
当時の同級生の話によると、高校時代の仁藤は(現在の銀行員時代の仁藤とは違って)まだ没個性で目立たない人間だったとのこと。
高校もマイナーで、成績もクラス一ですらありませんでした。
仁藤の過去:小・中学生時代(犬の飼い主・堀内の死)
仁藤の小学生時代について調べてみると、仁藤が隣の家にいた犬を異常に怖がっていたことが判明。
あの仁藤が犬を怖がるとはちょっと想像できないが、仁藤にも子供らしい一面があったということなのでしょうか?
仁藤の中学生時代の友人は、テニス部で区大会に出場の時に、仁藤が怪我で出場辞退したことがあると証言。
その怪我は、犬に転ばされたものだっとのこと。
仁藤に関して犬のエピソードが出てきたのは意外でしたが、友人によると仁藤が犬を恨む発言をしたことはなかったとのこと。
しかし衝撃の事実が裏に隠されていました。
仁藤の隣の家にいた犬の飼い主(堀内)が、ダンプカーに巻き込まれて内臓破裂で亡くなっていたのです!
この死に方は、松山(ゲーム機)と全く同じです!
・仁藤にとって、犬は排除したい存在だった。
・しかし犬には近寄れない、でも人間なら怖くない。
・仁藤は、堀内が隣家の所有者ではなく、単なる賃借人であることを知っていた(社宅)。
・犬の飼い主の堀内を殺せば、妻は犬を連れて出て行くことがわかっていた。
・仁藤は、隣家から犬を追い払うために、飼い主を殺した。
仁藤の過去:小学生時代(謎の同級生・ショウコ➀)
果たして、犬の飼い主である堀内の死が、仁藤の殺人歴の原点なのでしょうか?
「私」は、仁藤の小学生時代を知る人の話を聞いてみることにしました。
キーワードは、“突然の死”です。
すると、仁藤の小学校の同級生・ショウコの父親が、団地の階段から転落死を遂げていることがわかりました。
ショウコは仁藤の妻と同じ名前で、仁藤が大学時代に優しくした女性の名前もショウコ。
仁藤は、どうやらショウコに対して特別な思いを抱いていたようです。
ショウコとは、仁藤にとってどういう存在だったのか?
「私」は、ショウコが赤羽でホステスとして働いているという情報を入手して、会いに行きました。
しかし店の人は「ショウコなんて子いない」と言い、カスミという女性がやってきました。
カスミは「(ショウコは)多分もう辞めちゃった子だと思いますよ」と教えてくれました。
「私」は「ショウコさんの居場所を知らないかな?」と聞いてみましたが、カスミは知らないとのこと。
カスミが「なぜショウコさんの話が聞きたいんですか?」と聞いてきたので、「私」は「仁藤という男のことを調べている」と正直に言ってしまいました。
するとカスミは「訊いておいてあげましょうか?」とツテをたどると約束してくれました。
仁藤の過去:小学生時代(謎の同級生・ショウコ➁)
なんとその後、カスミに紹介されたと言ってショウコから電話がかかってきました。
「私」は早速ショウコと会って話を聞くことに。
・ショウコは、小学生の頃、義理の父親から性的虐待を受けていた。
・ショウコがこの事を仁藤に相談すると、仁藤は「やっつけてやる」と憤った。
ここまで話を聞いた「私」は、幼い仁藤が好きな女子を守るために、彼女の義父を階段から突き落としたのだと確信。
今までの殺人は動機が到底理解できませんでしたが、今回だけは人間らしい動機です!
しかしショウコは「義父は事故で死んだのですし、俊ちゃん(仁藤)とは関係ありません」と怒って出て行ってしまいました。
仁藤の過去:小学生時代(謎の同級生・ショウコ➂)
その後再びショウコから電話がかかってきて「今度こそ本当のことをお話しします」と言ってきました。
「私」は話の内容よりも、どうしてショウコが急に嘘を認める気になったのかが気がかりでした。
ショウコは「この間はほんの一部しかお話ししていないので誤解されてしまったようです。今日は本当のことを話します」と言いました。
・家庭が荒んでいたせいで根暗なショウコとは対照的に、仁藤は明るい朗らかな少年だった。
・仁藤はショウコに同情ではなく優しく接し、ショウコは次第に母や義母との辛い生活を仁藤に話すようになった。
・仁藤は、ショウコのために何ができるのかを一生懸命考えていた様子だった。
・ショウコへの義父の暴力がエスカレートし、遂に人の道を踏み外した。
・ある日ショウコは、仁藤を自宅のふろ場に隠し、自分が義父に性的虐待される現場を見せた。
・翌日、ショウコは仁藤に、義父を殺すのを手伝ってくれるように頼んだ。
・仁藤は青ざめた顔をしていたが「許せない」と協力すると言ってくれた。
・しかしいざその瞬間になると、仁藤はショウコの義父を殺せなかった。
・なのでショウコが、義父を突き落として殺した。
・その後は仁藤はショウコと目を合わせなくなり、ショウコは転校した。
以上が、ショウコが「私」に話した一部始終です。
仁藤の本当の動機がわかった?
「私」は遂に真相に到達した喜びに打ち震えました、これこそが仁藤の原点だったのです!
仁藤はショウコの義父を殺したはしなかったものの、殺人によって困難な事態を解決するという方法をその時知ってしまったのです。
人を殺しても捕まらないことがあるとわかっていれば、殺人も選択肢の一つに入ってきます。
これまで「私」が見てきたように、仁藤にとって殺人は安易な解決方法になっていたのです。
ショウコは全てを話したことで、仁藤の無実を証明したような気分になっていましたが、「私」はむしろ彼の精神風景の形成過程がこれで明らかになったと確信しました。
常人には理解できない動機で殺人を犯す男は、こうして出来上がったのです。
カスミの恐るべき正体
ところがこの後カスミから電話があり、カスミの話ですべてが覆されてしまいます。
なんとショウコには虚言壁があるというのです。
その証拠に、カスミもショウコの過去の話を知っていました。
最終的に理解できる結末があるのなんて、フィクションの中だけですよ。
現実には他人の心なんてわからないものでしょ。
殺人鬼に限らず、身近な人の考えていることだって、本当のところはわからないじゃないですか。
(中略)
恋人とか友達とか、考えを百パーセント理解しあえていたら、それは超能力者同士ですよ。
そんな風に理解できるわけがないとわかっていて、どうして殺人犯の心理だけは理解できないと落ち付かないですかね引用元:小説「微笑む人」カスミのセリフより
「私」は、すぐに反論が出来ませんでした。
仁藤の殺人動機を知りたいという私の思いは、傲慢なのかもしれない……。
「私」はふとカスミが仁藤の縁者で、私に仁藤の過去を探るなと言っているのかと考えましたが、カスミはそれについては否定。
カスミ:「わかりやすいストーリーも世の中には必要だから、それが本当でも嘘でも本にする価値は十分にあると思いますよ」
「私」はカスミかショウコ、どちらが本当のことを言っているのかわからなくなり、もう一度ショウコに会ってみることに決めました。
カスミ:「それなら最後に決定的なことを教えてあげましょうか?ショウコさんはニューハーフなんです。だから幼少期の性的虐待とか有り得ないんです」
「私」は頭を殴られたような衝撃を受けました。
「私」が会ったショウコがニューハーフならば、仁藤の同級生の女の子というのも嘘だからです。
「私」は、カスミかショウコ、どちらの話が嘘か確かめるため、ショウコの携帯番号にかけましたが、この番号は使われていないというアナウンスが流れてきました(>_<)
次にショウコの番号にかけると、先ほどと全く同じメッセージが流れてきました。
つまり、ショウコとカスミの両方に「私」はハメられていたのです。
「私」は夜になるのを待って、再び赤羽へ。
店のママにカスミに会いたいと言うと、「カスミちゃんは辞めたよ」とママ。
さらにママは衝撃の事実を教えてくれました。
ママ:「カスミちゃんの本名がショウコよ」
飲み屋を出た「私」の足取りはよろけていました。
頭を整理すると、ショウコ=カスミは「私」の取材を拒否するために偽ショウコ(男)を使ってまで妨害したのです。
やはり過去には何か事件があり、そのことで仁藤は影響を受けているのです。
そしてショウコは、それを封印してしまいたいのでしょう。
ここで「私」は気づいてしまいます。
この考えさえも、単に「私」というフィルターを通した虚像でしかないことを。
仁藤を善人と見るか悪人と見るか、それとも「私」のように理解できない価値観の持ち主と見るかで、見える虚像は変わっていくのです。
そして理解できないのは、仁藤だけではない。
私たちは、他人を理解したつもりで生活しています。
わからないことを認めてしまえば、たちまち不安になるからです。
地味な印象だったカスミ=ショウコの顔は、もうはっきり思い出すことはできません。
ただ、うっすら浮かべていた笑みだけは強烈に記憶に残っています。
その理由が今わかりました。
何を考えているのかわからない仁藤の笑みにそっくりだったからです。
『微笑む人』筆者の感想・仁藤の本当の動機とは?
とにかく仁藤が妻子を殺した動機が知りたくて夢中で読みました。仁藤が過去に犯したかもしれない不穏な事件が次々に浮彫になりますが、それらの動機も「本が増えて手狭になったから」と同じくらいフザけたものばかりでした。
不穏な事件 | 仁藤の動機? |
---|---|
梶原敬二郎の死 | 早く課長代理になりたかったから |
松山彬の死 | ゲーム機がほしかったから |
上国料の傷害事件 | 犯人と疑われて邪魔な存在だったから |
隣人の死 | 飼っている犬の排除 |
仁藤の初恋の人・ショウコが現れ、ようやく仁藤の殺人の原点がショウコの義父の死から始まっているのではないか?というところにたどり着きます。
ところがショウコは虚言壁があるうえにニューハーフと、まさに振り出しに戻ってしまいました。
本物のショウコはカスミだったわけですが、カスミは小説家の「私」を手玉に取って楽しんでいるようでした。
そう、仁藤のように。
筆者を含めて読者は「仁藤という殺人鬼を理解したい」と痛切に願うわけですが、考えてみれば我々は身近な人間のことさえ満足に理解していないのが現状です。
おそらく仁藤とカスミの間に現在の仁藤の方向性を決定づけた重大な事件があったのだと推測はできても、それは我々が仁藤を理解不能な殺人者と見ているからそう思うのです。
話がややこしくなってきましたが、仁藤とカスミは真実を知って安心しようとする我々をあざ笑っているかのようです。
結局、人の心なんて蓋を開けるまでわかりません。
もしある日仁藤が真面目な顔で本当の動機を語り始めたところで、それが真実かどうかは仁藤にしかわからないのですから。
・仁藤の妻子殺害の動機は、本が置けなくて手狭になったから。
・過去の不穏な事件も、全て仁藤の仕業。
・仁藤とカスミ(ショウコ)は、幼少期の凄惨な体験を殺人で乗り越えたことで、人生の選択肢に「殺人」を安易に加える人間になった。
・仁藤とショウコ(カスミ)にとって「殺人」は日常の延長線上にあるので、特別なことではない。